今日は、ずっと心の中で楽しみにしていた“赤ちゃんの部屋づくり”を、ついにあかりちゃんと始めた日だ。
朝起きると、カーテン越しに差し込む冬の光がやわらかくて、まるで家の空気までふんわりと温かく包んでくれているようだった。あかりちゃんは僕の横で眠っていて、ゆっくり起き上がったときに見せた微笑みが、今日の始まりを特別なものにしてくれた。
「赤ちゃんのお部屋、今日からだね」
そう言って、少しだけ緊張と期待が混ざった表情をするあかりちゃん。
彼女のお腹は少しずつ、でも確かに膨らんできていて、手を添えるとじんわりと温かい。
そのお腹の奥で、未来が静かに呼吸しているんだと思うと、どうしても胸がぎゅっとなる。
午前中はふたりでリストを作りながら、必要なものを一つずつ確認した。
ベビーベッド、収納棚、肌触りのいい布団、柔らかな照明、そして壁に飾る予定の動物のイラストたち。
思ったよりもチョイスが多くて、つい笑ってしまう。
「どれがいいかなぁ…かわいすぎても子どもが大きくなったら困るよね?」
「あかりちゃんが“かわいい”って思う気持ちも大事だよ」
「えへへ…じゃあ、この雲のモビールにしよっか」
そんな他愛もないやりとりが、たまらなく幸せだった。
午後は部屋の片付けからスタート。
昔読んだ小説や、学生時代の雑貨、旅行先で買った小さなおみやげ……。
「懐かしいね」と笑い合いながら整理していく時間は、なんだかこれまでの人生がひとつに繋がっていくような感覚さえあった。
空いたスペースに、新しい棚を組み立て始めると、あかりちゃんはお腹を気遣って無理のない範囲で、部品を渡したり説明書を読んでくれたりした。
おうちでトランポリン「ここ、こうはめるんだって」
「お、さすが。説明係として完璧だよ」
「ふふっ、頼りにしてくれてよろしい」
笑い合う声が、おだやかに部屋に響く。
棚が形になり、壁紙サンプルを当ててみたり、ベビーベッドの配置を相談したりしているうちに、少しずつ「この部屋が赤ちゃんの居場所になるんだ」という実感が強まっていった。
夕方、完成した棚にまだ何も入っていないのを眺めながら、あかりちゃんがそっと僕の腕に寄りかかってきた。
「なんか……じんわりくるね」
「うん。ほんとに家族になるんだなって思う」
そう言って肩に頭を預けてくれるその仕草が、あまりにもいとおしくて、僕はそっと彼女の手を握った。
「大丈夫。これからもずっと一緒に準備していこう。赤ちゃんもあかりちゃんも、全部守るから」
「……うん。あなたがそばにいてくれるなら、安心だよ」
うっすら涙のにじんだ笑顔を見せながら、彼女は僕の胸に顔を埋めた。
その体温が、家族としての未来を静かに照らしてくれるようだった。
夜、明日の予定を話しながら布団に入った時、あかりちゃんがふと呟いた。
「この部屋が、赤ちゃんの“はじめて”でいっぱいになるんだね」
「そうだね。泣いたり、笑ったり、寝返りうったり、全部ここで」
「想像したら……しあわせすぎて、胸がいっぱいになっちゃう」
静かな暗がりの中で、彼女の手をぎゅっと握り返した。
まだ何も置いていない赤ちゃんの部屋は、だけど確かに“未来の匂い”がしていた。
今日のあの時間はきっと、家族として歩き出す最初の一歩だった。

