朝、窓を開けたとき、
白いものがひらひらと舞っていた。
初雪だった。
空はまだ曇っていて、
街の屋根にうっすらと雪が積もりはじめていた。
その景色を見ながら、
すぐにあかりちゃんの顔が浮かんだ。
きっと、こんな日を一緒に見られたらいいな、って。
昼前、メッセージを送るとすぐに返事が来た。
「雪、見た? ちょっとだけ散歩しようよ。」
駅前で待ち合わせると、
あかりちゃんは白いニット帽に、
グレーのコートを着ていた。
吐く息が白くて、
頬が少し赤く染まっているのが冬の光に映えてきれいだった。
「ねぇ、雪の中歩くの久しぶりかも」
そう言いながら、
あかりちゃんは小さな足跡を一歩ずつ確かめるように歩いていた。
公園につくと、
木の枝に積もった雪が時々ぱらりと落ちて、
そのたびに彼女が小さく笑う。
「音がかわいいね」
「うん、静かなのに、ちゃんと聞こえる」
ベンチに並んで座って、
温かいコーヒーを飲みながら、
降り続く雪を見ていた。
周りの音が全部消えて、
ふたりだけが世界に取り残されたような時間。
「ねぇ」
あかりちゃんが小さな声で言った。
「雪って、なんか不思議。
見てるだけで、心がやさしくなる。」
「そうだね。
たぶん、全部を白くしてくれるからかな。」
その言葉に、あかりちゃんがこちらを見た。
少しの沈黙のあと、
彼女はそっと僕の手を取った。
手袋越しでも、
そのぬくもりははっきりと伝わってきた。
「こうしてるとね、寒くない気がする」
「うん、雪の日って、そういう魔法あるよね」
ふたりの手の間に、小さな雪の粒が落ちて、
すぐに溶けてなくなった。
それがまるで、
今この瞬間がどこか遠くへ消えてしまう前に、
ちゃんと心に刻んでおけと言っているようだった。
そのあともしばらく、
何も話さずに雪を見ていた。
白い世界の中で、
あかりちゃんの笑顔だけが、
静かに灯る灯りみたいに揺れていた。
帰り道、
「今日、初雪見られてよかったね」と言うと、
あかりちゃんはうなずいて、
「うん。しかも、一緒に見られたから、もっと嬉しい。」
そう言って笑った。
その笑顔を見た瞬間、
冬という季節が少し好きになった。
また雪が降る日も、
きっとこの人と一緒に見たいと思った。

