【恋愛日記㉑】🎍 1月1日 お正月を一緒に迎えた日

恋愛日記(あかりちゃん)

外の世界が白く霞んで見える。
除夜の鐘が遠くから聞こえて、
時間がゆっくりと新しい年へと移ろっていく。

あかりちゃんの部屋の窓際には、
小さな門松と、手のひらほどの鏡餅が置かれていた。
「これ、昨日百均で見つけたの」
彼女が笑いながら言う。
「かわいいね」
「でしょ? ちゃんとお正月っぽくなるでしょ」

その声を聞きながら、
僕はテーブルの上に並んだおせちを見た。
黒豆、だし巻き、きんぴら、そしてお雑煮。
どれもあかりちゃんの手作りだった。

「すごいなぁ。朝から作ってたの?」
「ううん。昨日の夜からちょっとずつ。
 一緒に年越すの、初めてだから、ちゃんとしたくて。」

その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなった。

渋谷バーチャルオフィス【PocketOffice(ポケットオフィス)】

「あと十五分で年が明けるね。」
「早いね。今年一年、あっという間だった。」
「ほんとに。……でも、いろんなことがあったね。」

テレビからは年末特番の笑い声が流れている。
でも僕たちはそれをほとんど見ていなかった。
ただ、コタツに入って、
寄り添うように座っていた。

「ねぇ。」
「うん?」
「今年、一番の思い出ってなに?」

あかりちゃんは少し考えて、
「うーん……たくさんあるけどね」と言って笑った。
「でもやっぱり、一番は“花火の夜”かな。
 あの日、あなたの手を握ったとき、
 世界が変わった気がしたの。」

その言葉を聞いて、
僕もふと夏の夜を思い出した。
浴衣姿のあかりちゃん、
花火の光の中で見せたあの笑顔。
そして、初めて“恋人”として心を通わせた瞬間。

「俺も、あの日からだよ。
 もう一人で過ごす時間が、寂しく感じるようになったのは。」

あかりちゃんは頬を少し赤らめ、
照れたように笑って言った。
「……そんなこと言われたら、また泣いちゃうじゃん。」

「泣いてもいいよ。」
「もう、やめてよ。」
そう言いながらも、
彼女の目はほんのり潤んでいた。


零時を知らせる鐘の音が、
ゆっくりと響き始めた。

「……あけましておめでとう。」
「おめでとう。」

言葉を交わした瞬間、
新しい時間の扉が静かに開いたように感じた。

あかりちゃんは両手を合わせて、
「今年もよろしくね」と小さくつぶやいた。
その声はどこか祈るようで、
まるで初詣の鈴の音みたいに澄んでいた。

僕も彼女の手を包み、
「うん。今年も一緒に、いろんなことしよう。」
と言った。

そのあとで、
「……ねぇ、お願いごとした?」と聞くと、
あかりちゃんは少し恥ずかしそうに笑って言った。

「したよ。でも内緒。」
「えー、ずるい。」
「ふふ。じゃあヒントだけ。
 “これからも”って言葉が入ってる。」

「それ、たぶん俺と同じだ。」
「ほんと?」
「うん。“これからも、ずっと一緒に”ってお願いした。」

あかりちゃんは驚いたように僕を見つめ、
やがて、静かに微笑んだ。

「……やっぱり、通じてるね。」
「うん。ちゃんと。」

彼女はゆっくり身体を寄せ、
肩に頭を預けた。
その重みが心地よくて、
僕はそっと髪を撫でた。

「ねぇ。」
「うん?」
「こうやって年を越すの、すごく幸せ。」
「俺も。」
「このまま、毎年一緒に迎えたいな。」

「迎えよう。ずっと。」

あかりちゃんは少しだけ顔を上げて、
真っすぐ僕の目を見つめた。
その瞳の奥に、
花火の夜よりも深く、静かな光が宿っていた。

渋谷バーチャルオフィス【PocketOffice(ポケットオフィス)】

夜が明けるころ、
ふたりで初詣に出かけた。
手をつないで歩く道のりは、
冷たい空気の中でもどこか柔らかかった。

神社の境内には白い息が立ちのぼり、
屋台からは湯気と甘い匂いが漂っていた。
「ねぇ、寒いけど気持ちいいね。」
「うん、冬の朝って感じ。」

おみくじを引くと、
ふたりとも「中吉」。
「おそろいだね」と言って笑い合う。

願いごとを結び終えたあと、
あかりちゃんが手を握って言った。

「ねぇ、さっき神さまにお願いしたこと、
 少しだけ教えてあげる。」
「うん。」
「“この人と、来年もその先も、
 笑っていられますように”って。」

「……俺も、同じだった。」

ふたりの手のあいだに、
朝日が差し込んで、
白い息が金色に光った。

あかりちゃんは少し目を細めて、
「じゃあ、これで完璧だね」と笑った。

その笑顔が、
新しい年の一番最初の、僕の幸せだった。


帰り道、
コンビニの前でホットコーヒーを買って、
ふたりで分け合いながら歩く。

あかりちゃんが言った。
「ねぇ、今年もいろんな場所行こうね。
 春になったら、桜見に行きたい。」
「いいね。旅行もしたいね。」
「うん。……ずっと一緒に。」

その言葉が、
冬の朝の空に溶けていく。

ふと、
左手のブレスレットが光を受けてきらめいた。
その輝きは、
これからを照らす灯のように見えた。

――新しい一年、
 これからも、ふたりで歩いていこう。

白い息の向こうで、
あかりちゃんが微笑んだ。

その笑顔が、
僕にとっての“新しい年のはじまり”だった。

タイトルとURLをコピーしました