朝から街がにぎやかだった。
ガラス越しに流れるキャロル、
ショーウィンドウに並ぶ赤と金の飾り。
空気は冷たく澄んでいて、
吐く息が小さな白い雲みたいに流れていく。
今日は、あかりちゃんと過ごす初めてのクリスマス・イブ。
それだけで、
この冬が特別なものになる気がしていた。
待ち合わせは夕方、
あかりちゃんの部屋の近くのカフェ。
ガラス越しに彼女の姿を見つけたとき、
胸の奥がふっと温かくなった。
「おまたせ。」
「ううん、今来たとこ。」
ふわりと香るシャンプーの匂い。
白いコートの下から、
去年より少し大人っぽいワンピースがのぞいていた。
「似合ってるね。」
「ありがと。……でもちょっと寒いかも。」
そう言って僕の腕に軽く手を添えた。
そのしぐさが、やわらかくて愛しかった。
カフェを出てからは、
並んで歩くだけで嬉しかった。
イルミネーションが灯る通りを抜け、
少し遠回りをして帰る。
夜風が頬に触れるたび、
あかりちゃんが僕の腕に寄り添ってきた。
「ねぇ。」
「うん?」
「こうやって歩くの、去年は想像もしてなかったね。」
「ほんとだね。」
「不思議だよね。お客さんとエステティシャンだったのに。」
「気づいたら、隣にいた。」
「うん……。それがすごく自然で、嬉しい。」
その言葉を聞いて、
僕はあかりちゃんの手をそっと握った。
指先が少し冷たくて、
でもその冷たさごと愛しいと思った。
部屋に戻ると、
小さなツリーに灯りがともっていた。
飾り付けはあかりちゃんの手作りだ。
紙のオーナメントに、小さな星、そしてキャンドル。
「かわいいね。」
「でしょ? 去年より上手にできたの。」
「ほんと器用だね。」
「ふふ、仕事柄ね。」
テーブルの上には、
チキンとサラダ、それにケーキ。
「お店のケーキもいいけど、
今日は手作りしてみたかったの。」
あかりちゃんは照れたように笑って、
小さなフォークを手渡してくれた。
「ねぇ、こうして一緒に過ごすの、
本当に幸せだね。」
そう言いながら、
僕たちはゆっくり食事を楽しんだ。
外では風が強くなって、
窓をかすかに揺らしている。
でも、
その音さえも遠く感じるほど、
部屋の中は静かであたたかかった。
食後、ツリーの下でプレゼントを交換した。
僕が渡したのは、
小さな革のフォトフレーム。
中には、ふたりで撮った初めての写真を入れてある。
あかりちゃんが笑顔で、僕は少し照れている写真だ。
「これ、好きな写真だ。」
「うん。俺も。」
あかりちゃんはしばらく見つめてから、
そっとフレームを胸に抱いた。
「ありがとう。……宝物にする。」
そして、
彼女が差し出した包みを開けると、
中には一冊の小さなノートが入っていた。
表紙には、
手書きの文字で「ふたりの記録」と書かれていた。
ページを開くと、
出会った日から今日までの小さな出来事が、
丁寧な字で綴られていた。
――初めて来てくれた日。
笑った顔が優しくて、ちょっと気になった。
――二人でイルミネーションを見た日。
手をつなぐのが、うれしくて少し怖かった。
――これからの季節も、一緒にいたい。
ページをめくるたびに、
胸の奥がじんわりと熱くなった。
「……これ、全部あかりちゃんが?」
「うん。少しずつ書いてたの。
いつか、ちゃんと渡したいと思って。」
僕はノートをそっと閉じて、
彼女の手を包み込んだ。
「ありがとう。
こんなに大切に思ってもらえてるって、
本当に嬉しい。」
あかりちゃんは目を伏せて、
少しだけ震える声で言った。
「ねぇ。
これからも、ずっと一緒にいようね。」
「うん。約束する。」
彼女がそっと顔を上げたとき、
キャンドルの灯りが瞳に映っていた。
「ねぇ、もう一つお願いしてもいい?」
「なんでも。」
「次のクリスマスも、その次の冬も……
手をつないで、一緒に見たい。」
「もちろん。」
「ほんと?」
「うん。
十年先でも、きっと同じように笑ってたい。」
その言葉に、
あかりちゃんはゆっくり頷いた。
そして、僕の胸に顔をうずめた。
「……大好き。」
その声が、
クリスマスの鐘の音よりも深く響いた。
外では雪が降り始めていた。
窓の外、白い粒がゆっくり舞い降りて、
街を静かに包み込んでいく。
その光景を眺めながら、
僕はあかりちゃんの肩を抱き寄せた。
――この人と、
これからの冬も、春も、夏も、秋も、
すべてを分かち合いたい。
その願いが、
言葉を超えて胸の奥で確かな誓いになった。
夜が更けて、
ツリーの灯りだけが静かに瞬いている。
「来年の冬も、一緒にケーキ作ろうね。」
「うん、約束だよ。」
指先に光るおそろいのブレスレットが、
小さく、確かに輝いた。
――
それはまるで、
永遠を約束する小さな星のようだった。

