午前中から雪がちらついていた。
窓の外に舞う白い粒を眺めながら、
「今年は静かな誕生日になりそうだな」と思っていた。
午後、スマホが震えた。
“19時、準備しておいてね。外出禁止だよ。”
送り主は、もちろんあかりちゃん。
それだけの短いメッセージなのに、
胸の奥がふわりと温かくなる。
たぶん、彼女のことだから、
きっと何か考えてくれているんだろう。
夕方になると、
部屋のチャイムが鳴った。
ドアを開けると、
そこに立っていたあかりちゃんは、
小さな紙袋を抱えて少し照れたように笑っていた。
「おじゃまします、誕生日の人。」
「どうぞ、どうぞ。」
「ちゃんと外出禁止守ってたね。えらい。」
テーブルの上に紙袋を置くと、
中から小さなケーキの箱と、
手作りらしい包みが出てきた。
「ケーキ、特別なやつじゃないけど、
一緒に食べたらおいしいかなって。」
箱を開けると、
いちごがのった小さなショートケーキ。
ロウソクを立てると、
部屋の灯りを少し落として、
彼女が「せーの」と言って火をつけた。
淡い光に照らされたあかりちゃんの顔が、
いつもより少し優しく見えた。
「お誕生日おめでとう」
その声は、まるで雪が降る音のように静かで、
でも確かに心に響いた。
火を吹き消すと、
彼女が拍手をして笑った。
「願い事、ちゃんとした?」
「うん。……でも言ったら叶わなくなるんだっけ?」
「そうだね。でも、
その顔見たら、きっといい願い事だったと思うよ。」
ケーキを分けながら、
あかりちゃんは何度も「おいしいね」と言っていた。
クリームが少し口についたのを慌てて拭う姿に、
僕は思わず笑ってしまう。
「もう、笑わないでよ」と言いながら、
彼女も一緒に笑った。
その笑い声が、
この夜のいちばんの贈りものだった気がした。
食後、あかりちゃんが包みを差し出した。
「これ、プレゼント。大したものじゃないけど……」
開けると、中には手編みのマフラーが入っていた。
落ち着いたグレーで、
ところどころ糸の太さが違うのが、
かえってあかりちゃんらしかった。
「編み物なんて初めてで、
最初はぐちゃぐちゃだったけど、
どうしても渡したくて。」
その言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなった。
「ありがとう。……本当にうれしい。」
そう言うと、
あかりちゃんは少し俯いて、
「よかった」と小さくつぶやいた。
僕はそのマフラーを首に巻き、
「どう? 似合う?」と聞くと、
あかりちゃんは顔を上げて、
少し照れながらもうなずいた。
「うん。あったかそう。
あ……それ、私が作ったから、
たぶん気持ちも少し入ってると思う。」
その言葉に、
もう何も言えなくなった。
ただ、そっと彼女の手を取って、
「ありがとう、あかり。」とだけ言った。
窓の外では、雪が静かに降り続いていた。
その白い景色の中で、
部屋の明かりがふたりを包み込む。
何も派手なことはない夜。
でも、確かに“幸せ”と呼べる温度がそこにあった。

