街のイルミネーションが灯りはじめたころ、
風が急に冷たくなった。
外に出るたびに、
冬が少しずつ近づいているのを肌で感じる。
そんなある夜、
仕事帰りのあかりちゃんからメッセージが届いた。
『外、めっちゃ寒い〜。冬がきたね。』
『あったかいココア飲みたいな☕️』
その一文が、なんだか愛しくて、
僕は自然と笑ってしまった。
――よし、あかりちゃんに“冬の贈りもの”を渡そう。
そう決めたのは、その瞬間だった。
その週の土曜日、
あかりちゃんの部屋を訪ねた。
玄関を開けると、
ほのかに甘い香りが漂ってきた。
「いらっしゃい。シチュー作ったよ。」
「いい匂い。寒い日にピッタリだね。」
テーブルには白いお皿が並び、
湯気の向こうであかりちゃんが笑っている。
その光景だけで、
胸の奥が温かく満たされていく。
食後にココアを淹れて、
ソファで並んで座る。
窓の外では、街の明かりがぼんやり滲んでいた。
「ねぇ、冬ってさ、なんか“思い出”の季節な気がしない?」
「思い出?」
「うん。昔のことを、ちょっとだけ優しく思い出せる季節。」
「たしかに。
寒いのに、なんか心があったかくなるよね。」
「うん。」
あかりちゃんはマグカップを両手で包みながら微笑んだ。
その姿を見て、
僕はポケットの中に忍ばせていた小さな箱を取り出した。
「あかりちゃん。」
「ん?」
彼女がこちらを向いた瞬間、
僕は少し照れくさくなりながら言った。
「これ、ちょっと早いけど……冬のプレゼント。」
「え? なに?」
驚いたように目を丸くするあかりちゃんに、
そっと小箱を手渡した。
白いリボンをほどき、
中を開けたあかりちゃんが小さく息をのむ。
中には、
銀色の小さなブレスレット。
シンプルだけど、内側に小さな刻印がある。
“always with you”
あかりちゃんは指で文字をなぞりながら、
「……これ、もしかして……」とつぶやいた。
「うん。
一緒にいたいって気持ちを、
ちゃんと形にしたくて。」
しばらくの沈黙。
やがて彼女は目を細めて笑った。
「……ずるい。
こんなのもらったら、もう泣いちゃうじゃん。」
その声が少し震えていた。
「泣かせたくて渡したわけじゃないよ。」
「わかってる。
でもね、嬉しいの。
本当に、心の奥があったかくなる感じ。」
あかりちゃんはブレスレットを手首に巻きながら、
「ねぇ、これ、私だけ?」と聞いた。
僕は笑って、
ポケットからもうひとつ、同じデザインのものを見せた。
「ペアだよ。」
「……ほんとに?」
「うん。いつも一緒にいられなくても、
これ見たら、ちゃんと“いる”ってわかるようにしたかった。」
あかりちゃんは一瞬言葉を失って、
そのまま僕の胸に顔をうずめた。
「ありがとう……。
もう、ほんとに、嬉しい。」
彼女の肩越しに見える窓の外では、
小さな雪がちらちらと舞っていた。
しばらく抱き合ったまま、
時計の音だけが静かに流れる。
やがて、あかりちゃんが顔を上げて、
少し照れくさそうに言った。
「ねぇ。」
「うん?」
「私ね、ずっと思ってたの。
“この人となら、どんな季節でも大丈夫かも”って。」
「……そう思ってくれてるの?」
「うん。
今日、ちゃんと確信した。
ずっと一緒にいたいなって。」
僕はあかりちゃんの手を握って、
「俺も同じ気持ちだよ。」と答えた。
その瞬間、
あかりちゃんは目を細めて笑った。
冬の灯りが彼女の頬をやわらかく照らして、
その笑顔はまるで初雪のように静かで美しかった。
「じゃあさ。」
「うん?」
「この冬、私たちの“はじまりの冬”にしようよ。」
「……うん。そうしよう。」
指先に触れる彼女の温もりが、
言葉よりも強い誓いになっていた。
帰り際、玄関であかりちゃんが言った。
「今日の雪、覚えててね。
初雪と一緒に、約束した日だから。」
「もちろん。」
外に出ると、
白い息の向こうに、
ゆっくりと雪が舞っていた。
その冷たさの中で、
左手に光るブレスレットが
静かにきらめいていた。
――これからも、
あかりちゃんと歩いていこう。
冬の風の中、
その決意だけが
はっきりと心に灯っていた。

