【恋愛日記⑫】🌸 3月26日 あかりちゃんと行く春の小旅行

恋愛日記(あかりちゃん)

朝の光が、カーテンのすき間から差し込んでいた。
まだ少し冷たい空気の中で、
湯気の立つコーヒーをひと口。
時計の針は、もうすぐ8時。
もうすぐ、あかりちゃんと待ち合わせの時間だ。

駅に着くと、春休みのせいか人が少し多い。
ホームのベンチで彼女を待っていると、
「おはよう」と、
軽やかな声が背中から届いた。

振り向くと、
あかりちゃんは白いカーディガンを羽織って、
薄いピンクのスカートを揺らしていた。
朝の光の中で、
その姿がまるで春そのもののように見えた。

「おはよう。今日は早かったね。」
「うん、楽しみすぎて、ちゃんと起きちゃった。」
そう言って笑う顔を見て、
こちらまで自然に笑みがこぼれる。

電車に揺られながら、
お菓子をつまんだり、窓の外を指さしたり、
他愛もない話がずっと続いた。
あかりちゃんは時々、
嬉しそうに車窓の景色を写真に撮っては、
「これ、帰ったらアルバムにしようね」と言う。

その“帰ったら”という言葉が、
なぜか心に残った。
まるで、これが一度きりの旅じゃなく、
これからも一緒に過ごしていく日々の一つのように思えた。


目的地の小さな町に着くと、
桜並木がゆるやかに風に揺れていた。
川沿いを歩くと、
花びらが流れに沿ってふわりと漂っていく。

「きれいだね」
「うん。春って、やさしいね。」

あかりちゃんがつぶやく声が、
まるで桜の香りのように柔らかかった。
彼女の髪が風に揺れて、頬にかかる。
思わず手を伸ばしそうになって、
でもその瞬間、彼女の方が先に気づいて笑った。

「髪、顔についちゃった。」
そう言って自分で耳にかけながら、
少しだけ頬を赤らめた。

昼は、駅前のパン屋さんで買ったサンドイッチを、
川辺のベンチで食べた。
あかりちゃんは、卵サンドを頬張りながら、
「ピクニックみたいだね」と嬉しそうに言う。
風が心地よくて、
桜の花びらがときどき膝の上に落ちてきた。

「春のにおい、好き。」
「どんなにおい?」
「うーん……ちょっと甘くて、ちょっと切ない感じ。」

彼女のその表現が、
まさに今の空気そのものに思えた。
この時間がゆっくり流れていくことが、
ただそれだけで幸せだった。


午後、坂道を登って小さな神社まで歩いた。
鳥居の向こうには、
まだ人の少ない境内と、
咲き始めた桜の木。

「ねぇ、せっかくだし、おみくじ引こうよ。」
「うん。」

二人並んで引いたおみくじ。
僕のは“吉”、あかりちゃんのは“中吉”。
「ふふっ、微妙に私の方が上だね。」
「ちょっと悔しいな。」
そんな小さな勝負を笑い合いながら、
願い札を結んだ。

彼女がそっと結びながら、
「来年もまた一緒に来られますように」
と小さな声でつぶやいたのが聞こえた。

その言葉に返すように、
僕はそっと彼女の手を握った。
あかりちゃんは驚いたように見上げたけれど、
すぐに、少し照れたように微笑んでくれた。

その手のぬくもりが、
春の風よりもやさしく、確かに伝わってくる。
何も言葉はいらなかった。
ただ、その瞬間、
「この人と過ごす日々を大切にしたい」と、
心の底から思った。


夕方、帰りの電車に揺られながら、
あかりちゃんは少し眠そうに肩を寄せてきた。
「ねぇ、今日ね」
「うん?」
「すごく楽しかった。
 なんかね、ずっとこんな日が続いたらいいのになって思った。」

僕は返事の代わりに、
彼女の頭をそっと撫でた。
あかりちゃんは目を閉じて、
そのまま少しだけ肩にもたれかかってきた。

車窓の外には、
沈みかけた夕日が遠くの山を染めていた。
その光が、彼女の髪に反射して、
まるで淡い桜色のように見えた。

「ねぇ」
眠そうな声で、あかりちゃんがつぶやく。
「今度は、夏にどこか行こうね。」

「うん、約束。」
そう言うと、
彼女は小さく笑って、
そのまま目を閉じた。

電車のリズムが心地よく響く。
春の風が、少しだけ窓から入りこんで、
二人の間にやわらかく流れていった。

そして僕は思った。
この旅のいちばんの思い出は、
きっと“行き先”じゃなく、
この“隣にいる時間”なんだ、と。

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