カーテンの隙間から、春の光が差し込んでいた。
窓の外では、桜の蕾がほころび始めている。
少しずつ街の空気が柔らかくなっていくのを感じながら、
僕はぼんやりと週末の天気予報を見ていた。
“明日は晴れ。最高気温17度。絶好の行楽日和です。”
ニュースキャスターのその一言に、
胸の奥がふわりと弾む。
そうだ、明日は――あかりちゃんと行く、小さな春の旅行の日。
きっかけは、ほんの何気ない会話だった。
「もうすぐ桜、咲くね。」
「うん。今年はどこか見に行けたらいいな。」
「じゃあ、行こうか。」
たったそれだけのやりとりが、
この数週間を穏やかに照らしていた。
夕方、仕事を終えて帰る途中、
駅前のスーパーでお菓子や飲みものを買い込む。
彼女の好きなミルクティーと、小さなパウンドケーキ。
あかりちゃんは甘いものを食べると、
いつもほんの少しだけ幸せそうな顔をする。
帰宅してカバンに詰めながら、
「これは必要かな、いや、こっちも…」と
つい独りごとが増えていく。
こんなに念入りに荷造りしたのは、
たぶん学生時代の修学旅行以来だ。
夜になって、
「明日の準備、できた?」とLINEを送ると、
すぐに既読がついた。
“うん! 服も決めた! おやつも準備完了✨”
そのテンションの高さが文字から伝わってきて、
思わず笑ってしまう。
“楽しみすぎて寝られなさそう”
“寝なきゃダメだよ。明日、寝坊したら置いていくぞ”
“それは困る! じゃあ頑張って寝る😴”
そんなやりとりをしているうちに、
気づけば時計の針は11時を回っていた。
画面を閉じて、枕元の灯りを落とす。
部屋が静かになって、
窓の外からはかすかに春の風の音が聞こえる。
目を閉じても、
あかりちゃんの笑顔が頭の中に浮かんでくる。
たぶん彼女も、同じように明日のことを考えているだろう。
まだ旅に出てもいないのに、
すでに心の中では始まっていた。
翌朝の天気を確認しようと、
ふとスマホを手に取ると、
新しいメッセージが届いていた。
“ねぇ、明日、いっぱい写真撮ろうね。”
その一言に、胸がきゅっと締めつけられた。
どんな景色よりも、
きっと僕はその笑顔を撮りたいと思うだろう。
明日は、春の風の中で――
ほんの少し、あかりちゃんとの距離が
また近づく気がしていた。

