【恋愛日記㉓】🌸 3月下旬 春の訪れと、ふたりの小さな旅行

恋愛日記(あかりちゃん)

目を覚ますと、
カーテンの隙間から差し込む光が、
やわらかく部屋を満たしていた。

「今日、いい天気だね」
ベッドの隣であかりちゃんが、
眠たそうな声でそう言った。

彼女の指には、
あの日贈ったリングが光っている。
朝の光を受けて、
小さな虹のようにきらめいていた。

「ほんとだ。旅日和だね」
「うん。行こう、春を探しに。」


今回の旅行は、
前から行きたかった小さな温泉町への一泊二日。
駅から少し離れた静かな宿で、
川沿いには桜並木が続いているらしい。

電車に揺られながら、
あかりちゃんは窓の外の景色を眺めていた。
まだ咲きはじめたばかりの桜が、
ぽつぽつと春の色を添えている。

「ねぇ、見て。つぼみ、もうすぐ咲きそう」
「ほんとだ。次に来るときは満開かな」
「そのときも一緒に来ようね」
「もちろん。」

その“当たり前のような約束”が、
胸の奥でゆっくり響いた。
もう、未来の約束が自然にできる関係になったんだ――
そう思うだけで、
心の奥がじんわりとあたたかくなった。


宿に着くと、
山の空気がひんやりとしていて、
川のせせらぎが静かに響いていた。

「わぁ……すごいね。
 空気が、都会と全然ちがう。」
「深呼吸したくなるね。」
「うん。」

二人で川沿いを歩くと、
道の脇に小さな菜の花が咲いていた。
風が吹くたび、黄色い花びらがゆらめく。

「こういう場所、落ち着くね」
「うん。なんか、“時間がゆっくり流れてる”って感じがする。」
あかりちゃんは笑いながら、
僕の腕にそっと手を重ねた。

それだけで、
もう言葉なんていらなかった。
ただ寄り添って歩くだけで、
未来の形が見えるような気がした。

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夕方、温泉に入ってから、
宿の食堂で夕食をとった。
地元の野菜と魚の料理が並んで、
湯気の向こうであかりちゃんが笑っている。

「こういう時間、幸せだね。」
「うん。特別なことがなくても、
 こうして隣にあなたがいるだけで、十分。」

あかりちゃんの言葉は、
いつもまっすぐで、心にすっと届く。
その一言一言が、
日々の中に小さな灯りを灯してくれる。

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夜。
外に出ると、
風が少し冷たかった。
でも、空には満天の星。

「わぁ……星、こんなに見えるんだね。」
あかりちゃんが空を見上げて、
子どものように目を輝かせた。

「東京じゃ、こんなに見えないね。」
「うん。ねぇ、星ってさ、
 すぐそこにあるみたいに見えて、
 ほんとはすごく遠いんだよね。」

「でも、光はちゃんと届くんだ。」
「……そうだね。」

その言葉のあと、
あかりちゃんが僕の手を握った。
手のひらのぬくもりが、
静かな夜に広がっていく。

「私ね、
 あの日あなたが指輪をくれたとき、
 なんだか夢みたいで、
 うまく言葉が出なかったの。」

「うん。」

「でも、今はちゃんと言いたい。
 あなたと出会えて、
 恋をして、今こうして隣にいることが、
 私の人生の中でいちばんの幸せだよ。」

その声は震えていなかった。
静かで、やさしくて、
確かに未来を見つめている声だった。

僕はその手を少し強く握り返して、
ただ一言、言った。

「俺も、ずっと守るよ。
 これから先、どんな季節も。」

あかりちゃんは目を閉じて、
小さくうなずいた。

遠くで風が桜のつぼみを揺らした。
その音が、まるで未来の祝福のように聞こえた。


翌朝、
宿を出るとき、
あかりちゃんが小さくつぶやいた。

「また来ようね。」
「うん、今度は満開の桜を見に。」

そう言って手をつなぎ、
駅へ向かう道を歩いた。

その背中に降り注ぐ春の光が、
ふたりのこれからを照らしているようだった。

――この旅は、
“ふたりで生きていく”という未来の、
最初の一歩になった。

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