【恋愛日記㉞】**🌙 新婚生活日記 〈3話〉

恋愛日記(あかりちゃん)

「あかりちゃんの手作り弁当」

 朝、目を開けると、いつもより早くあかりちゃんが起きていた。
 キッチンから小さな物音が聞こえて、
 カタカタとまな板を叩く音が規則的に続いている。

 枕の上で少しぼんやりしながら時計を見る。
 まだ出勤の2時間前だ。
 “何してるのかな…”と思いながら起き上がり、
 そっとキッチンをのぞくと、
 あかりちゃんが髪を後ろで結んで、
 真剣な顔で卵焼きを巻いていた。

 「おはよう、あかり」
 声をかけると、彼女は驚いたように振り返って、
 少し恥ずかしそうに笑った。

 「…おはよう。あのね、今日はね……弁当作ってみたの」
 「弁当?」
 「うん。あなたに持っていってほしくて…」

 そう言うと、卵焼きの形を整えながら
 頬がほんのり赤くなる。

 “新妻の手作り弁当”なんて、漫画みたいな言葉が頭に浮かぶ。
 でも目の前の光景は、漫画よりずっと温かくて現実的で、
 幸せの匂いがしていた。

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■ 朝のキッチンに満ちる、やさしい空気

 横に立って覗き込むと、
 お弁当箱には色とりどりのおかずが丁寧に並べられていた。

 ・甘めの卵焼き
 ・鶏の照り焼き
 ・ほうれん草のおひたし
 ・ウインナーに小さく切れ目が入ったもの
・彩りのミニトマト

 それに、小さな紙カップに入ったポテトサラダ。

 「これ全部、朝から作ったの?」
 「うん。昨日の夜、どうやったら可愛く詰められるかなって調べたの」
 「すごいな…」
 「すごくないよ。でもね…
  あなたに“美味しかったよ”って言ってもらえたら、
  きっとすごく嬉しいと思って」

 その言葉だけで、
 今日一日の疲れが全部吹き飛びそうだった。


■ 出勤前の、ふたりの静かな時間

 朝ごはんを食べて、出かける準備をしていると、
 あかりちゃんが玄関まで見送りに来てくれた。

 手には、布の包みに包まれた弁当。
 包みの端っこを指先でぎゅっと持ちながら、
 「これ、ちゃんと食べてね」と渡してくる。

 「もちろん。ありがとう」
 「……今日、仕事がちょっと大変なんでしょ?」
 「うん、少しね」
 「じゃあ、これが少しでも元気になる手伝いをしてくれたらいいな」

 その言葉が胸に響く。
 弁当よりも、その気持ちが、何より嬉しかった。

 靴を履こうとするとき、
 あかりちゃんがそっと袖をつまんだ。

 「……行ってらっしゃいのキス、してもいい?」

 新婚らしい甘さに、不意をつかれた。
 もちろんだよ、と言って軽くキスをすると、
 彼女は恥ずかしそうに笑って手を振った。

 「あのね、帰ってきたら感想聞くからね?」
 「楽しみにしてて」
 「うん! ぜったい、ぜったい言ってね」

 その声が耳に残ったまま、玄関の扉を閉めた。

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■ 昼。お弁当の蓋を開けた瞬間

 職場の昼休み。
 机の上に弁当を置いて、そっと包みをほどく。

 その瞬間、胸がぎゅっとした。

 料理の色合い、詰め方、
 少し曲がったウインナーの上に乗った星形のピック。
 完璧じゃないところが、逆にたまらなく愛しい。

 箸を入れると、どれも優しい味がする。
 プロの料理ではない。
 けれど、その何倍も心にしみる味だった。

 “朝早く起きて作ってくれたんだ”
 “俺のために一生懸命考えてくれたんだ”

 そう思うと、胸の奥がじんわりと温かくなる。

 ふと、弁当箱の端に小さな付箋が貼ってあるのに気づいた。

 『午後もがんばってね。帰ってきたらギュッてしてあげる。
   あかり』

 すこし顔が熱くなる。
 でも、こんな幸福なら、いくらでも照れていい。


■ 帰宅後の、最高の“ただいま”

 仕事を終えて帰り道を歩くとき、
 今日ほど家に帰りたいと思った日はなかった。

 玄関を開けると、
 すぐにあかりちゃんがぱっと顔を上げて駆け寄ってくる。

 「おかえり! 弁当…どうだった?」
 「最高だった。ほんとに美味しかったよ」

 その言葉を聞いた瞬間、
 あかりちゃんは胸に飛び込むように抱きついてきた。

 「よかったぁ…! すっごく心配だったの」
 「心配なんていらないよ。全部美味しかった」
 「ほんと? ウソじゃない?」
 「ウソつくわけないだろ」
 「えへへ…嬉しい。もう一生分嬉しいかも」

 彼女の体温が腕の中で落ち着いていく。
 こんなにも“帰ってきてよかった”と思った夜はない。


■ 弁当がくれた、小さな約束

 その晩、あかりちゃんがぽつりと言った。

 「これからね、あなたが大変な日ほど、
  お弁当作ってあげたいなって思ったの。
  あなたの力になりたいって、ずっと思ってたから」

 “支え合う”ってこういうことなんだと、
 あらためて胸にしみた。

 「じゃあ…また作ってくれる?」
 「もちろん。
  だって私は、あなたのお嫁さんなんだから」

 彼女の笑顔は、どんなご馳走よりも心を満たしてくれた。

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