【恋愛日記㉝】**🌙 新婚生活日記 〈2話〉

恋愛日記(あかりちゃん)

「仕事から帰ってきたら、あかりちゃんが…」**

 いつもより少し遅くなった平日の夜。
 外の空気には冷え込みが戻ってきていて、
 息を吐くと白くなる。

 ほんの数日前まで沖縄で過ごしていたなんて、
 信じられないくらい現実の匂いがする帰り道だった。

 駅からの道を歩きながら、
 「今、家にあかりが待ってるんだよな」
 そう思うだけで足取りが軽くなる。
 以前の暮らしでは考えられないことだ。

 家に帰るのがこんなにも楽しみになるなんて、
 きっとあかりちゃんと夫婦になったからだろう。


■ 「おかえり」より先に届いた、やわらかい匂い

 玄関の鍵を開けた瞬間、
 ふわりと料理の匂いが漂ってきた。

 出汁の香りと、やさしい炒めものの香ばしさ。
 ただいまの声を出す前に、胸がじんと温かくなる。

 「…あれ、帰ってきた?」
 少し緊張したような、でも嬉しさが隠せない声。
 キッチンのほうから、エプロン姿のあかりちゃんが
 顔をのぞかせた。

 「おかえりなさい」
 その笑顔を見た瞬間、疲れなんてどこかへ飛んでいった。

 「ただいま。いい匂いがする」
 「えへへ、頑張って作ったの。今日はね…“あなたが好きそうな夜ごはん”」
 その言い方が可愛くて、
 まるでプレゼントを渡す直前みたいに照れている。


■ テーブルに並んだ“ふたりのための夜ご飯”

 手を洗ってリビングに向かうと、
 テーブルに並んでいる料理に息をのんだ。

 ・ふわふわだし巻き
・野菜たっぷりの味噌汁
・鶏肉の甘辛ソテー
・五目の炊き込みご飯
・そして小皿に乗った、ささやかなサラダ

 派手さよりも“優しさ”を選んだような献立。
 どれも丁寧に作られているのが伝わってくる。

 「こんなに…すごいね」
 「お嫁さんっぽいでしょ?」
 「お嫁さんそのものだよ」

 その言葉に、あかりちゃんは火がついたみたいに頬を赤くして、
 「…その言い方ずるいよ」と呟いた。


■ 食卓に流れる、静かな幸福の時間

 ふたりで箸を動かし始めると、
 一日の疲れがするすると溶けていく。

 「おいしい…」
 気づけば自然に声が出ていた。

 「ほんと? よかった…あなた、好きかなって思って」
 「どれも最高だよ。帰ってきてこれ食べられるなんて幸せすぎる」

 その一言を聞いて、
 あかりちゃんの表情がふわっと緩んだ。

 「ねぇ…帰ってきて“おいしい”って言ってもらえるの、
  こんなに嬉しいんだね」

 家族になった実感が、
 そっと胸の奥から湧き上がる。


■ 食後の、ちいさな事件

 片づけを手伝おうとして立ち上がった時、
 あかりちゃんが急に袖をつまんで引っ張った。

 「…ねぇ」
「ん?」
 「今日はね…ちょっとだけ、さみしかった」

 “え…?”と驚く俺を見上げながら、
 彼女は言葉を続ける。

 「あなたが仕事に行ってる間、
  家にひとりでいるのって、なんだか不思議で…
  帰ってくるまで、ずっとそわそわしてたの」

 胸の奥がぎゅっとなる。
 そんな気持ちで待っていてくれていたなんて。

 「ごめん、遅くなって」
 「違うよ!全然怒ってるとかじゃなくて…
  あなたが帰ってきた瞬間、胸がきゅーってして…
  なんか…泣きそうになっちゃった」

 それは、寂しさじゃなくて、
 “あなたが必要なんだ”という甘い想いだった。


■ ハグから始まる、ふたりの夜

 気づけば自然と、彼女をそっと抱きしめていた。
 細い肩、あたたかい体温、
 服越しに伝わる小さな震え。

 「ただいま、あかり」
 「……おかえり」

 その声は、まるでふたりの家の灯りみたいにあたたかかった。

 「あのね…」
 「あかりの気持ち、ちゃんと伝わったよ」
 「ほんと?」
 「うん。これから毎日、帰ってくるの楽しみになるよ」

 あかりちゃんは胸に顔を埋めて、
 小さく「ずっと一緒にいたい」と呟いた。

 その言葉は、
 夫婦の絆をさらに強くしてくれる魔法みたいだった。


■ ふたりで迎える、新しい“ただいま”の意味

 その夜は、いつもより長く抱きしめ合った。
 テレビの音も、外の車の音も聞こえないほど、
 ふたりだけの世界が静かに満たされていく。

 “ただいま”と“おかえり”が、
 こんなにも心を温めてくれるなんて、
 新婚生活が始まる前には想像もできなかった。

 家が“帰る場所”になるんじゃなくて、
 “一緒にいる人が帰る場所になるんだ”
 と気づかせてくれる夜だった。

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