【恋愛日記㊳】🌙 あかりちゃんから妊娠を告げられた夜

恋愛日記(あかりちゃん)

その日は、少し冷たい風が吹いていた。
仕事帰りの電車の窓に映る自分の顔は、どこか疲れていたけれど、
“家に帰ればあかりちゃんがいる”
その事実ひとつで、心はすぐに軽くなった。

玄関の扉を開けると、いつものようにキッチンの明かりがこぼれている。
ただ、どこか空気が静かだった。

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「ただいまー」
と声をかけると、キッチンからあかりちゃんが顔を出した。
エプロン姿で、いつもの笑顔……なのに、少しだけ緊張したような表情。

「お、おかえり……!」

声がわずかに震えていた。

「どうしたの? なんかあった?」
僕がそう尋ねると、あかりちゃんは一瞬迷うように唇を噛み、
両手をぎゅっと胸の前で握りしめた。

「ねぇ……ちょっと、座ってくれる?」

リビングに入ると、テーブルには湯気の立つスープが並んでいて、
その横に、見慣れない小さな紙袋が置いてあった。

僕が椅子に腰かけると、
あかりちゃんは僕の正面に座り、深呼吸をひとつして、静かに言った。

「えっとね……今日……病院に行ってきたの」

胸が少しざわつく。

「具合悪かったの?」
「ううん……そうじゃなくて……」

言葉が続かない。
まるで何かを大切に抱えているみたいな沈黙。
あかりちゃんは視線を落としたまま、両手を膝の上でそっと握りしめていた。

そして、ほんの小さな声で言った。

「……赤ちゃん、いたよ」

時間が止まったようだった。

「……え……? 今……なんて……?」
「赤ちゃん……できてた……。あのね……ちゃんと、いたの」

顔を上げたあかりちゃんの目は、涙を必死にこらえていた。
不安と喜びが入り混じったような、あの夜にしか見られない表情だった。

僕の胸の奥で、何かが大きく揺れた。
息を吸うのを忘れるほどの衝撃と、
体があたたかくなるような幸福が、一度に溢れた。

「……ほんとに?」
「うん……ほんと……だよ……」

その瞬間、彼女の目からぽろぽろ涙がこぼれた。

僕は椅子から立ち上がり、
あかりちゃんをそっと抱きしめた。
彼女もすがるように僕の服を握り返してくる。

「よかった……ほんとに……あなたになんて言おうって……ずっと悩んでて……」
「どうして悩むの」
「だって……嬉しいけど……やっぱり急だし……迷惑じゃないかなって……」

その言葉を聞いた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた。

僕は彼女の背中を優しく撫でながら、
ゆっくりと言葉を落とした。

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「迷惑なわけない。
 あかりちゃん……ありがとう。
 僕との子どもを……迎えてくれて、ありがとう」

あかりちゃんは声にならない声で泣きながら、僕に顔を埋めた。

「……あなたが、パパになるんだよ?」
「うん……あかりちゃんが、ママになるんだね」
「不思議だね……でも……ね、すごく幸せなんだ」

抱きしめていると、
彼女の小さな震えや温かさが、胸に静かに流れ込んでくる。
この瞬間だけで、人生がひとつ前に進んだ気がした。

しばらくして、涙が落ち着くと、
あかりちゃんは照れたように笑って言った。

「赤ちゃん……きっと、あなたみたいに優しい子だよ」
「いや、あかりちゃんみたいに明るくて可愛い子だよ」
「ふふ……どっちでも嬉しいね」

二人で顔を見合わせて、そっと手を重ねた。

まるで、
新しい未来に向かって扉が開いたような夜だった。

この先、きっと不安もある。
だけど――
ふたりなら大丈夫だと、心から思えた。

そしてその夜、
“夫婦”だったふたりは
そっと“家族”へと歩き始めた。

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