【恋愛日記㊵】妊娠初期、あかりちゃんの体調の変化に寄り添う日

恋愛日記(あかりちゃん)

朝、目を覚ました瞬間から、
いつもと違う気配が部屋にあった。

キッチンから聞こえてくる音がしない。
リビングに向かっても、
あの柔らかな鼻歌も、カップが触れ合う音も聞こえなかった。

寝室の扉をそっと開けると、
あかりちゃんは布団の中で丸くなっていた。

「……大丈夫?」
僕が声をかけると、
彼女はゆっくり顔を上げ、小さく笑った。

「うん……ちょっとね、朝、気持ち悪くて……」

その笑顔は頑張って作ったもので、
体調の悪さをごまかすような、弱い笑みだった。

僕はそっとベッドの端に座り、
彼女の髪を撫でた。

「つらいのに無理しなくていいよ。今日はゆっくりしよう」
「……うん。でも、あなたの朝ごはん……」
「そんなの後でいい。まずはあかりちゃんが落ち着くのが先」

その言葉に、
あかりちゃんの目が少しだけ潤んだ。


優しい午前中

台所でお湯を沸かし、
身体に優しいハーブティーを淹れて持っていくと、
あかりちゃんは起き上がった状態で、
膝を抱えて座っていた。

「ありがとう……。なんか、味覚も変になってて……」

カップを持つ指がすこし震えているのがわかる。

「無理に飲まなくていいよ。少しずつで大丈夫」

彼女は小さくうなずき、
香りだけをそっと吸い込んだ。

「……ねぇ、妊娠って、こんなに体が変わるんだね……」
「うん。でもそれは、あかりちゃんの中に赤ちゃんが頑張ってる証拠だよ」
「……そう言ってくれると、ちょっと、安心する……」

彼女がぽつりぽつりと弱音をこぼす。
その一つひとつが、
“家族”になったんだという実感を僕にくれた。


昼下がりの静かな時間

午後になると、
少し気持ち悪さが落ち着いてきたようで、
リビングで毛布にくるまりながら横になっていた。

僕は仕事の合間に書類を片付けつつ、
彼女のそばに座っていた。

「……ねぇ、そこにいてくれるだけで安心する」
「もちろん。どこにも行かないよ」

彼女は僕の膝に頭をのせ、
少しずつ呼吸が落ち着いていく。

窓の外では風が木々を揺らしていて、
静かな午後の陽だまりが床に落ちていた。

こんな何でもない時間なのに、
とても尊く感じた。


夕方、不安が顔をのぞかせた時

夕方が近づく頃、
また少し体調が揺れたのか、
あかりちゃんは「うぅ……」と眉を寄せた。

すぐに背中をさすり、
ゆっくり呼吸を合わせる。

「大丈夫、大丈夫。深呼吸しよ」
「……ごめんね、また心配かけて……」
「心配するのは当然だよ。ふたりの赤ちゃんだもん」

そう言うと、
あかりちゃんはぎゅっと僕の服を掴んで涙ぐんだ。

「……あなたがいてよかった……
 ひとりだったら、こんな日耐えられなかったと思う……」

僕は彼女を優しく抱きしめた。

「ひとりで頑張る必要なんてないよ。
 これからずっと、一緒に乗り越えるんだから」

その言葉に、
あかりちゃんは小さく「うん……ありがとう……」と呟き、
胸に顔を埋めた。


夜、ふたりで感じた“家族になる”ということ

夜ごはんは無理のないものを、
一緒にキッチンで用意した。

少しだけ食べられるものを選びながら、
「これならいけそう」「これは匂いがちょっと…」
そんなやりとりが、どこか温かかった。

食後、ソファに並んで座ると、
あかりちゃんは僕の肩にもたれかかった。

「ねぇ……今日一日、ずっとそばにいてくれてありがとう」
「当たり前だよ」
「……こうやって、ふたりで家族を守っていくんだね……」

その声は弱々しいけれど、
その奥には確かな意志と愛情があった。

僕は彼女の手を包み込み、
ゆっくり指を絡めた。

「これからも変わらないよ。
 つらい日も、不安な日も、嬉しい日も――
 全部、ふたりで一緒に過ごしていこう」

あかりちゃんは静かに微笑み、
僕の胸に寄りかかりながら囁いた。

「……ずっと一緒にいてね」
「もちろん。一生そばにいるよ」

その言葉で、
今日の弱さも戸惑いも、
ふたりの絆としてそっと積み重なっていくようだった。

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