【恋愛日記㊴】初めての検診にふたりで行く日

恋愛日記(あかりちゃん)

朝の光がカーテンの隙間から差し込んで、
まだ少し眠たそうにしているあかりちゃんがベッドの中で身じろぎした。

「……起きなきゃいけないのに……緊張でお腹がそわそわする……」

そう言いながら、僕に寄り添ってくる。
小さな不安と、静かな喜びが混ざったような声だった。

僕は彼女の髪を優しく撫でながら言った。

「大丈夫。今日は一緒に行くし、ずっと隣にいるよ」

あかりちゃんは安心したように目を細めて、
「うん……ありがと」と囁いた。

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病院までの道のり

外は晴れ。
春の気配を含んだ風が少しだけ柔らかい。

ふたりで並んで歩く道は、いつもの道のはずなのに、
今日はどこか特別に感じた。

紙袋の中には母子手帳と、少し前に買った可愛いファイル。
あかりちゃんは緊張と楽しさが入り混じった顔で、
何度もそのファイルをぎゅっと抱きしめていた。

「ねぇ……赤ちゃん、元気だといいね」
「元気だよ。あかりちゃんのお腹、ちゃんと守ってあげてるもん」
「……そうかな。うん……そうだといいな」

僕が優しく手を握ると、
あかりちゃんは照れながら笑って指を絡めてきた。
薬指に触れるぬくもりが、やさしく胸に広がる。


待合室での時間

産科の待合室は、静かな空気と柔らかい匂いに包まれていた。
赤ちゃんを抱いた夫婦や、少し大きなお腹の妊婦さん――
そういう景色を見ていると、
「あぁ……自分たちもこの世界の仲間になるんだ」
そんな実感が胸に満ちてくる。

あかりちゃんは隣でそわそわして、
手のひらを膝の上でぎゅっと握っていた。

「緊張してる?」
「……ちょっと……ね。あの……赤ちゃんの音、ちゃんと聞こえるのかなって」
「聞こえるよ。僕も一緒に聞くから」

そう言うと、
あかりちゃんは僕の肩に軽くもたれかかった。

「ありがとう……ひとりじゃないんだって思えて……すごく安心する……」

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いよいよ診察室へ

名前を呼ばれた瞬間、
あかりちゃんは小さく肩を震わせた。

「行こう」
僕が手を差し出すと、
彼女は迷わず僕の手を取って、弱く、でもしっかり握った。

診察室に入ると、
優しそうな女医さんが微笑んで迎えてくれた。

「初めての検診ですね。今日はエコーで赤ちゃんの様子を見てみましょう」

その言葉だけで、心臓がドクンと高鳴る。

あかりちゃんがベッドに横たわり、
お腹を少し出す。
僕はそのすぐ横に立ち、彼女の手を握ったまま。

「緊張する?」
「……する……はぁ……」
「大丈夫。すぐそばにいるから」


初めて見る “命の影”

エコーの機械が当てられ、
画面が黒と白の光で満たされていく。

その瞬間――

「……あ……」

あかりちゃんの口から小さな声が漏れた。

画面の中心に、
ほんの数センチの、小さな小さな影。

まだ形ははっきりしないのに、
そこに“命”が確かにあるとわかる。

女医さんが優しく言った。

「しっかり心臓、動いてますよ。
 ほら、ここ……トクトクって」

僕の胸に電流のような震えが走る。

画面の中の小さな光が、規則正しく点滅している。
そのひとつひとつが、生まれようとする命の鼓動。

あかりちゃんは泣きそうな声で言った。

「……ほんとに……いる……
 ねぇ……見て……私たちの赤ちゃん……」

「うん……見てるよ……
 あかりちゃん、ありがとう……」

気づけば僕も彼女の手をきつく握っていた。

画面を見つめるふたりの距離が、
今までで一番近かった。


帰り道、ふたりで歩く未来

病院を出ると、
あかりちゃんは母子手帳を胸に抱えて、
ゆっくり歩いていた。

「……なんかね、実感が湧いてきたの」
「うん」
「ほんとに……お母さんになるんだって」
「うん」
「あなたが隣にいるって、すごく心強いよ」

彼女の横顔は、どこか強く、どこか優しくて、
もう“ただの恋人”の顔じゃなかった。

僕はその横顔を見つめながら、
自然と彼女の肩を抱いていた。

「これからも一緒に行こう。
 検診も、不安も……全部ふたりで」

あかりちゃんは静かに微笑んで言った。

「うん……家族なんだもんね、私たち」

そう言って歩く帰り道は、
いつもの街が少しだけ未来へ続いているように感じられた。

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