日曜日の午後、
少し風の強い春の陽ざしの下を歩いて、
駅前のカフェにあかりちゃんと向かった。
ガラス張りの店内には穏やかな音楽が流れ、
窓際の席には、陽がやわらかく差し込んでいる。
「ここ、落ち着くね」とあかりちゃんが言う。
彼女はカフェラテを頼み、僕はブレンドを。
運ばれてきたカップから立ちのぼる香りが、
静かに心をほどいていく。
外の通りを歩く人たちを眺めながら、
あかりちゃんはふと「春っていいね」とつぶやいた。
「どうして?」と聞くと、
「うーん、寒くもなくて、暑くもなくて、
なんか、“ちょうどいい”って感じがするの。」
そう言ってストローをくるくる回しながら笑う。
その笑顔を見ているだけで、
確かにこの時間も“ちょうどいい”と思えた。
「ねぇ、あの旅行、もう半月前なんだね。」
「そうだね。桜、もう散っちゃったけど、
写真、見返すとまだ咲いてるみたいだ。」
スマホを差し出すと、
あかりちゃんは嬉しそうに覗き込んで、
「この写真、私の顔ちょっと変じゃない?」と笑う。
「いや、いい表情してると思うけど。」
「もう、そうやって言うのずるい。」
小さな笑いが、湯気と一緒にカップの上に広がる。
外の風が少し強く吹いて、
窓の向こうで木々の枝が揺れた。
その音さえ、心地よく感じた。
ふと、あかりちゃんが
「ねぇ、こうして過ごす時間が一番好きかも」と言った。
「どこかに行くのも楽しいけど、
こうして、ただおしゃべりしてる時間がいちばん落ち着くの。」
僕はうなずいて、
「わかるよ。なんか、“日常に君がいる”って感じがする。」と答えた。
あかりちゃんは一瞬きょとんとして、
それからゆっくり頬を染めて笑った。
「ね、それって……ちょっと嬉しいかも。」
カップを持ち上げるその仕草が、
春の光の中でやさしく見えた。
外では新しい季節の風が吹いているけれど、
このカフェの中には、
もう少しだけ長く続いてほしい穏やかな時間が流れていた。

